オリンピック・パラリンピックの際の感染対策を涵養する報道様式についての要望書
2021年6月18日、新型コロナ専門家有志の会は、日本新聞協会及び日本民間放送連盟宛に「オリンピック・パラリンピックの際の感染対策を涵養する報道様式についての要望書」の申し入れを行いました。要望書本文をnoteとして公表します。
要望書のPDF版はこちらよりご覧いただけます。
また、同日、政府の新型コロナウイルス感染症対策に助言をしてきた尾身茂氏ら感染症の専門家有志が、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、政府等に、大会開催に伴う感染拡大及び医療逼迫を招かないための提言書を提出しましたのでこちらの記事もお読みください。
日本新聞協会会長 丸山昌宏殿
日本民間放送連盟会長 大久保好男殿
オリンピックそしてパラリンピックは、一大「メディア・イベント」であり、平時であれば祝祭として挙行されてきました。
しかし現在、日本社会そして世界は、感染者を減らし一人でも多くの命を救うため、薄氷を踏む感染対策を行っている最中です。今回の東京オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)が実施されるならば、メディアは「祝祭を共有しつつも、同時に感染対策に寄与し人々の命を守る」という矛盾したメッセージ機能を実現する、大きな責任を負うと考えます。
この一年あまり新型コロナ感染症対策に取り組んできた者として、私たちは以下の点について、報道各社がそれぞれに工夫していただくことを強く希望します。
1. 人流を抑制するための報道の工夫
「パブリック・ビューイングで熱狂する観衆」や、「地元出身の選手の活躍を皆で集まって応援する人々」、さらには「沿道でマラソンを応援する観衆」といった映像や記事は、現代ではオリパラの報道を構成する要素になっています。しかし、こうした慣習化した報道は、人々に感染症対策のうえで脆弱な行動を喚起しかねず、今回は避けられなければなりません。
2. 自宅での応援スタイルの涵養と普及
上と関連しますが、感染症対策との両立を考えれば、今回のオリパラが実施されるならば「メディア<だけを通じて経験する>イベント」に留める必要があります。そのためには、競技を見守る人々が、一体感も感じつつもそれぞれの自宅にとどまって応援するような報道を実現せねばなりません。
上記は、いずれも慣習化したオリパラの報道スタイルに大きな変更を強いることでしょう。競技の報道のなかに感染対策の情報を交えていくことには抵抗感もあるかもしれません。しかし皆さまにおかれましては、この1年以上のコロナ禍のなかでメディアの皆さんが培ってきた伝えかたの工夫や、これまでにないパンデミック下での報道スタイルの発明を通じ、祝祭の中での感染対策という矛盾に正面から向き合い、公器の役割を果たして頂きたく存じます。
オリパラが開催されるということになりましたら、それは競技者のみならず、メディアの皆さんにとっても挑戦の機会となるはずです。長引くコロナ禍に疲れた人々にスポーツを通じた勇気を与えつつも、感染を拡大させず人々の命を守るという難事に、プロフェッショナルとして取り組んで頂きたいと願っています。
以上