無症状の方にPCR検査を拡大することの問題は?
専門家有志の会の中島です。
PCR検査の対象を無症状の市民にも拡大すべきとの声をよく聞きます。
しかし、感染症の危機管理の立場からすると、このアイデアには多くの問題があります。ここでは、感染防止対策と検査の考え方について、ぜひ知ってもらいたいポイントをお伝えします。
(本記事は、BuzzFeedの岩永記者による取材記事 ・10/7更新の要約版となります。よろしければ元の記事もご覧ください)
検査対象者の3つのカテゴリー
政府に対策を助言する専門家組織「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は、PCR検査の対象者を議論するときに、次の3つのカテゴリー(7月6日・第一回分科会資料)にわけて考えることを呼びかけています。
①新型コロナらしい症状がある方
②無症状だが、感染者と濃厚接触した、集団感染が起きそうな環境に身を置いていたなど感染の確率が高い方
③無症状で、特に濃厚接触などしておらず、感染の確率が低い方
無症状で、濃厚接触のない方へ検査することの予防効果は低い
名古屋市立大学の鈴木先生への取材記事(BuzzFeed、9/24更新)でも紹介されたように、世界各国のデータをみると、検査数が増えても、患者数は減りません。患者数が多い国ほど、検査数も多くなっています。
ほかにも、世界各国の研究が、検査による感染予防効果は高くないことを示しています。
たとえば、イギリスの4万人の行動データを使った数理モデルの研究では、毎週、人口の5%の人を選んで、しらみつぶしに検査を続けたとしても、感染を2%しか減らせないと計算されています。これでは、全体として感染のまん延防止にはつながりません。
また、インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告は、一般市民に広く検査を行うよりも、日本が行っているような感染者の接触者調査の方が、感染予防効果は高いとまとめています。
「陽性」の結果が出ても感染させる時期は半分
新型コロナに感染した方のウイルス量の変化と、感染させる期間を示した図です。
このように、発症日の2日前から2日後までが最も多く、その後は減っていきます。PCR検査をすると、3週間ほど結果が「陽性」とでます。しかし、3週間のうち、発症後10日以降は人に感染させません。つまり、無症状の方に検査をして感染者を見つけて隔離したとしても、後半の時期だと、感染予防効果はないということです。
「陰性」の結果が出ても安心は得られない
検査で「陰性」という結果がでたとしても、安心はできません。なぜなら、PCRの感度は70%程度であり、約3割は、本当は感染しているのに「陰性」と結果がでる(偽陰性)からです。
もし、本当は感染しているのに「陰性」と結果が出た方が、安心しすぎた結果、感染予防の不十分な行動をとると、その行動が他の方への感染につながるかもしれません。
「偽陽性」が出るとどうなるのか
反対に、本当は感染していないのに「陽性」と結果がでる(偽陽性)こともあります。実際には感染している確率が低い集団の場合、検査を増やせば増やすほど、偽陽性の人数も増えます。つまり、本来は必要がない多くの方々に、入院や宿泊施設での療養を求めることになってしまうのです。
感染拡大防止のために本当に必要なことは?
では、感染拡大防止のために、本当に必要なことはなんでしょうか。
検査は限りある資源なので、まずは必要な人が、迅速に受けられるように体制を整えることが肝心です。
感染した方を、効率よくみつけるには、次のような方法が有効です。
・発病した方を早く検査する
・感染者の濃厚接触者を見つけて、そこからの感染拡大を防ぐ
・接触者調査の精度を上げる
・患者数を減らし、保健所がしっかり接触者調査できる状況をつくる
保健所が行う接触者調査と、無症状の方にランダムに検査を繰り返す方法を比べた研究もあります。濃厚接触者に自宅待機などの対策をしっかりとってもらうと、感染者が64%減少するのに対し、毎週5%の住民にランダムに検査をしても、2%しか減らせません。
最後に
感染の起こりやすい場所や、感染予防が十分ではない方の弱点を、ウイルスはついてきます。これからは、対策をうすく、広くするのではなく、弱いところに資源を集中的に投下することが必要ではないでしょうか。
不安を解消するために検査をしたい気持ちはよくわかります。しかし、陽性、陰性という結果がでたあとの対策を、よく考えておくことが重要です。検査を増やしたほうがよい、というのは共通の思いですが、検査ですべて解決できるわけではありません。使い方をきちんと考え、信頼できる検査が、必要なときにできる体制をつくることが大事です。
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